参番隊02:252話沿い

ここがオレのいるべき戦場・2


 関東卍會との抗争の最中。マイキーくんと話がしたいとパーちんくんは宣言した。そんな願いを口に出すパーちんくんもだが、間髪入れずに受け入れるぺーやんくんも相当だ。尊敬して止まないふたりの胆力に、オレもまた鼓舞されるままにパーちんくんの背中を見送った。
 ――ホント、負けないでくださいよ。
 この際、マイキーくんに勝てる、勝てないはどうでもいい。とにかくパーちんくんが
自分の望みを捨てるような事態にならなければオレは満足だ。
 まっすぐに駆けていく背中が、どうか誰にも邪魔されませんように。そんな意味の無い願いなんてオレは抱かない。〝星に願いを〟なんてガラじゃないし、オレにはオレの役目があるからだ。
 この抗争でマイキーくんをぶっ飛ばすのがタケミっちやパーちんくんの本懐ならば、オレはふたりがその場所へ辿り着くまでの道を守り通す。きっとオレだけでなくぺーやんくんたちも同じ想いを抱えているはずだ。
 正面に立つ男の気道を目がけて拳を突き出し、その隣に立つ男の首筋にすかさず踵を落とす。そうやって再起不能なダメージを与えながらひとりでも人数を減らそうと奔走していると、パーちんくんの激走する姿が横目に入った。
 反射的にそちらを振り返ると、パーちんくんは突進する勢いのまま立ち塞がる敵を右へ左へと薙ぎ払っていた。きっと向こうだってマイキーくんの元へは行かせまいと切なる願いを抱いているはずなのに、そんなものパーちんくんには通用しない。まるでダンプカーかトラックを思い起こさせるほどの激走に、オレは思わず敵に同情にも似た念を抱いてしまっていた。
 遠目からそれを眺めていた敵も同じ感想を抱いたのだろう。青ざめた顔つきで自分らの仲間が蹂躙されるさまを目を見開いて見守っていた。視線がこちらに向かないのをいいことにオレは迷わずそいつらの首筋目がけて踵を振り下ろす。そうやって隙だらけの連中に二、三発食らわせて回ったが、それでも数の不利が残っている感は否めない。
 オレの暗躍に気付いた連中から少しでも距離を取られれば、こちらもまんじりと対峙するほか無かった。周囲にいる連中と示し合わせ、こちらに詰めてくる連中はにやりと薄ら笑いを浮かべた。
 
「……ハッ! 一番ヤベェやつがあっちに行っちまったからこっちがやりやすくなったぜ!」
「だな! おい、一気にやっちまおうぜ!」
「それにしてもあの男もバカなヤツだ! 総長に楯突くなんて自ら窮地に飛び込むようなもんだろ!」

 敵の放ったとある挑発にぴくりとこめかみが動く。どれもこれも耳にしたところでたいして心はくすぐられない。知性の欠片も感じないありふれた煽りは、不良漫画で目に入る程度にチープなものだ。
 ――けどよ。〝バカ〟も〝やりやすくなった〟もダメでしょう。
 たしかにパーちんくんはバカだけど、たとえ窮地に陥ったとしても難敵に立ち向かうと決意したオレの隊長を馬鹿にする権利なんてオマエらには与えられない。
 それにパーちんくんがいないから安心したみたいに言ってるけど、こっちにはまだぺーやんくんがいる。いくら参番隊の中で一番ヤベェのはパーちんくんであるのが正しくとも、あの人がこんなつまらない連中に見下げられるなんて断じて許すわけにはいかない。
 奇っ怪な嫉妬じみた独占欲を腹の内に生まれるのを感じながら、目を細めて正面に立つ連中を睨み据える。

「――あのさ」
「アァ? なんだこのガキ」
「気を抜いたところを悪いんですけど、ウチのヤベェのまだ残ってますんで」
「アァ? テメェみてぇな雑魚のどこがヤベェんだよッ!」

 今のはオレにとっては挑発でもなんでもなかった。それでも煽られたと感じたらしいひとりがこちらに向かって飛び込んでくる。敵の一撃をすんでのところで躱し、顎の下に掌底を食らわせれば、簡単に相手は仰向けに倒れた。
 顎から脳天に突き抜けるような痛みで脳はぐらぐらと揺れていることだろう。一時起き上がることのなどできないであろう相手へ一瞥を流し、正面で棒立ちになった連中を振り仰いだ。

「オレはたしかに雑魚かもしれませんが……オマエらあっちで戦ってるオレの副隊長に勝てると思ってんの?」
「ハァ? ナニ他人の力を自分のものみたいに言ってんだオマエ」
「コイツ、身も心も雑魚みてぇだな!」

 顔を歪めてゲラゲラ笑う連中に軽く口元を緩める。
 ――そのままどうか存分に油断してくれ。
 喧嘩に対するプライドなんてとうの昔に砕かれている。弱いとバカにされたくらいで心が揺れることはない。なんなら〝虎の威を借る狐〟くらいに侮ってほしいくらいだ。
 ――さて、そろそろ仕上げに入るとするか。

「ってかそろそろおしゃべりやめませんか? 飽きちゃった」
「ハァ?」
「だーかーらー……さっさとかかってこいっつってんだよ。それとも怖いのか? 雑魚のオレが」
「テメェ……その口、二度と利けなくしてやるよ!」

 右足を一歩引き半身で構えると、掲げた人差し指をくいくいと動かした。挑発めいた行動にまたひとりこちらへ躍り出る。
 駆け寄ってきた男の拳を躱し、そのまま肘を掴むと勢いを利用して背負い投げの要領で放り投げた。正式な技は習得してないので相手は肘や筋を痛めたかもしれないけれど、まぁそのあたりは喧嘩なんで両成敗と言うことで。もっとも、オレは成敗を受けるつもりはないけれど。ぺろっと内心で舌を出し、痛そうに腕を抱えて縮こまる男に視線を落とす。この呻き具合ならきっと復活はないだろうと判断し、落とした視線を転じると、オレの隊長を馬鹿にしたうえで副隊長を安く見積もった連中を睨み据える。

「あぁ、そうそう。さっきの言葉。使い間違いがあったので訂正してあげますね」
「ハ?」
「さっき窮地って言いましたけど、それ飛び込むんじゃなくて陥ったり立たされたりするもんだから」
「ハァ?」
「オマエら馬鹿だから知らねぇんだろ? せっかく今から立たされるんだから、ちゃんと覚えて帰ろうね」

 にやりと笑って煽り散らせば、連中は簡単に目の色を変えて真正面から突っ込んでくる。頭に血が上った連中は攻撃が単調になるから御しやすい。
 まっすぐに伸びてくる拳をギリギリまで引きつけて躱してはカウンターを叩き込む。顎をめがけて拳を伸ばせば、気を失うほどのダメージを負い、しばらくは起き上がれないと経験上知っていた。
 ――オレもぺーやんくんに食らわされたことあるしなぁ。
 初対面での出来事を思い浮かべながら小さく苦笑し、左からやってきた相手の拳を一歩後退して躱す。勢い余ってこちらの眼前を通り過ぎようとする相手の足下を掬いバランスを崩してやると、そのうなじに肘を突き刺した。どさりとその場に崩れ落ちた数は、たった今、オレと会話を楽しんだ連中と同数だった。もはや窮地と呼ぶことすらおこがましい状況に落とし込んでやったが、果たして彼らはちゃんと言葉の誤りを覚えているだろうか。
 ――まぁ、どっちでもいいけどね。
 フフンと鼻を鳴らして、隣で膠着状態に陥った喧嘩の輪に紛れ込むと、それぞれの相手に集中していた敵を落として回る。

「助かったぜ、!」
「いえいえ。さぁ、どんどん行きましょう」
「オゥ!」

 パーちんくんの呼びかけで集まった先輩らに頭を下げ、次の集団へと足を運びながらふと背後を振り返る。少し離れた場所で奮戦するぺーやんくんは敵を武器にしてぶん回しているようだった。八面六臂の大奮闘に阿修羅や羅刹と言った言葉が脳裏に浮かぶ。
 えげつない戦いを繰り広げるぺーやんくんに頼もしさと共に呆れに似た感情を抱いてしまう。
 ――いやいや。本当にひどいわ、アレは。
 誤解もあってぺーやんくんに喧嘩を売られたことがあったが、あの時、一発で気絶して良かった。もし下手に粘っていたらオレもあのような扱いを受けていたことだろう。
 今更ながらに肝を冷やすと同時に口元が引き締まる。だが、ぺーやんくんの奮闘もパーちんくんにこの場を任されたからこその代物だと思えば、また違った意味で唇を固く結んだ。
 ――ふたりが戦ってるんだ。オレも負けてらんねぇよ。
 少し敵を倒したからと言って慢心するわけにはいかない。お調子者じみた考えを振り落とすと、引き締めると目の前から向かってくる敵の動きに合わせて拳を構える。鬼神のごとき躍進を背後に感じながら、オレもまた敵へと突っ込む先輩方の背を追った。

 ***

 自分の周囲にいた敵を粗方蹴散らすと同時にひとつ肩で息を吐く。思った以上に重い溜息がこぼれたことに気付き、鼻の下を指の甲で軽くこすった。
 いくら体育で走らされたところでスタミナが無尽蔵になるわけではない。そう理解しいても苦笑はこぼれる。どうやらパーちんくんの言うとおり、久々の喧嘩に対し「慣れてない」と身体が悲鳴を上げているようだった。
 額に浮かび上がった汗なのか、それとも殴られたことで滲んだ血なのか。最早入り交じりすぎて判別つかないものを特服の袖口に吸わせる。そうやって呼吸を整えながら視線を転じれば、コンテナの上でマイキーくんと対峙するパーちんくんを鼓舞するべく激励の言葉を投げかけるぺーやんくんの姿が目に入った。

「いつものオマエで行け!!」

 まっすぐなパーちんくんの背中に向けて、これ以上無い激励の言葉を差しだしぺーやんくんは左腕で相手の首を絞めながら正面から殴りかかってきた相手に前蹴りをかます。そうやって敵の数を削りながらも、意識はふたりの対決に釘付けのようだった。
 目に見えて油断している様子のぺーやんくんに眉根を寄せる。もちろん、そんなことで大敗を喫するようなぺーやんくんではないだろう。だけど徒党を組まれれば、状況はどう変わるかわからない。
 ちょうどオレが次の戦場を探しているのも、天が味方したってやつなのかもしれない。もう一暴れするのならどこで戦うべきか。迷いはなかった。

「ぺーやんくん」
「オゥ、なんだ。……ってひでぇツラしてんな。ちょっと休んでろ」
 
 少し離れた場所にいたぺーやんくんの元へと駆けつければ、こちらに気付いたぺーやんくんはくるりとオレに背を向ける。そこまで不調のつもりはなかったが、遠慮無く、トン、と背中同士を合わせた。
 
「……パーちんくん、ちゃんと辿り着いたみたいですね」
「オウ、そーだな」

 立ち止まったことで再び噴き出した汗が流れ落ちる。袖口で汗を拭い、ついでに目に掛かった前髪を爪でなぞるように流せば少しだけ視界がマシになった。
 背後で呼吸を整えるぺーやんくんの気配を感じながら目の前に立つ敵の姿を探る。先程まで獅子奮迅の勢いで暴れ回っていたぺーやんくんを見る目は警戒に染まっている。その相手に味方であるオレが追加されたことで、さらになにか仕掛けてくるのではと厳戒態勢を敷く関東卍會の連中は、遠巻きにこちらを睨み付けてくるだけだった。
 この分なら少しくらいぺーやんくんと話してもいいだろうか。敵の踏み込み具合を観察し、いつ飛びかかられてもいいように間合いを計りながら、オレはそっと口を開いた。

「ぺーやんくんは行かなくてよかったんですか?」
「バァカ。パーちんがマイキーに挑むならタイマンしかねぇだろ」
「それもそうですね」

 ただの喧嘩とは違い、今回はチーム同士の抗争だ。そんな状況で大将首として君臨するマイキーくんにタイマンを挑むのも本来なら褒められたことではないのかもしれない。だけどパーちんくんのそのまっすぐさを曲げることなんてオレたちに出来るはずもなかった。

「……ただ、もしパーちんが倒れた時、次はオレらが突っ込むからな。オマエも覚悟しとけよ」
「ハハ。肝に銘じておきますよ」
「――まぁ、一発で終わっちまうだろうけどな」

 珍しく飛び出た弱気な発言に驚き、軽く振り返ればぺーやんくんもまた首だけをこちらに捻っていた。浮かび上がる苦い笑みに、二年ほど前の記憶が呼び起こされる。
 初代東卍が解散したあと、久しぶりにみんなで武蔵神社に集合したことがあった。懐かしい顔ぶれにまた笑って話ができると信じてたオレたちは、生きているのが嫌になるほどマイキーくんに痛めつけられた。
 ぺーやんくんなんて顔面を強打されて気を失ったところに追い打ちで側頭部を蹴られていたんだ。戦う前からマイキーくんには敵わないとぺーやんくんが口に出すのも無理からぬ話だ。
 きゅっと唇を引き締める。あの場にいなかったパーちんくんが敵うのか敵わないのか。ぺーやんくんの口ぶりから言って、ほぼ見えている答えを前に、オレは何をすべきなのか。
 ごくりとひとつ喉を鳴らし、ぺーやんくんのもとまで来た理由を胸に抱く。きゅっと眉根を寄せて前方にいる敵を睨み据えるとそのままぺーやんくんに向けて言葉を紡いだ。
 
「それで今はどうするおつもりで?」
「んなの、コイツらを全員地獄に落とすに決まってんだろ」

 何言ってんだ、とでも言いたげなぺーやんくんの口ぶりに思わず苦笑する。
 ――パーちんくんもそうだけど、この人も本当に曲がらない。
 自分が今、敵よりも他の戦況よりもパーちんくんを気にかけていることに気付いてもいないらしい。もしくは気付きながらも副隊長としての義務感で抑えつけているのだろうか。
 ――心配なら駆けつければいいのに。
 そう進言する手もあるにはある。だけど、おそらく今、一番助けたいと思っているはずのぺーやんくんがこの場に踏みとどまっているんだ。その想いに水を差すことにしかならないのなら、そんな提案は黙って飲み込むべきだ。
 どちらにせよ、こうやって話してる間もきっとぺーやんくんの視線はパーちんくんに釘付けのはずだ。背後にいるから見えないけれど、自ずと確信できた。
 それなりの付き合いがあるんだ。ただでさえわかりやすいぺーやんくんのやりたいことを見抜くのなんて、赤子の手を捻るよりも簡単なんですよ。

「そうじゃなくて、パーちんくんが男を見せてんでしょ。あなたが見てなくていいのかって話ですよ」
「……ッ」

 オレの発言に意表を突かれたのか、ぺーやんくんが息を呑む音が聞こえてくる。パーちんくんを送り出した直後の様子は見ていないが、マイキーくんのもとへ辿り着いて以降のぺーやんくんの様子は傍目から見てもまったく集中できていないのが丸わかりだった。
 ――だからオレは次の激戦の場にこちらを選んだんだ。
 ぺーやんくんの意識がパーちんくんとマイキーくんとの戦いに傾いているというのなら、その背中を押すのがオレの役目だ。先程のパーちんくんを送り出したぺーやんくんのように――。
 投げかけた言葉に対し、ぺーやんくんの答えは返ってこない。いつもなら追い打ちをかけるようにべらべらしゃべるところだが、今、背後で葛藤しているはずのぺーやんくんにそんな真似をする気にはなれなかった。

「上等だぁあ!!」
 
 そうこうしているうちに喧嘩が始まってしまったのか、気迫に満ちたパーちんくんの叫び声が耳に入ってくる。おそらくぺーやんくんにも聞こえたのだろう。背後で身じろぎするさまを感じ取る。

「パーちん……」

 かすかに首を捻ってぺーやんくんの様子を確認する。下がり眉な眉尻をさらに下げ、不安そうな表情でコンテナを見上げるぺーやんくんに一瞥を流し、再び前を向く。意外にも敵の中にも観戦モードに入ったやつらが多くいるようだったが中にはこちらに向けて滲み寄ってくる者もいた。
 このままではぺーやんくんの覚悟が決まるよりも先に相手の手がこちらに届いてしまう。そのままなし崩しに戦うハメになったとき、オレらが敵を片付けるまでパーちんくんが持ちこたえてくれるのか否か。分の悪い賭けに口元を引き締めていると、浅い呼吸を繰り返し息を整えていたぺーやんくんが、意を決したように喉を鳴らしたのが聞こえてきた。
 

「はい」
「……少しの間でいい。持ちこたえてくれ」
「――仰せの通りに」

 ほとんど言葉にならない声で「頼む」と続けたぺーやんくんの決断に口角を上げて応じる。ぺーやんくんの言葉を借りるなら「オレはそのために来たんだからよ」ってやつだ。それが命令であったとしても、オレは頷いたことだろう。
 そのままひとつ頭を揺らしたオレは預けていた背中から離れ、敵陣へと突っ込んだ。少し休んでいたおかげで体力は回復していたが、それは相手も同じことだろう。
 ――だけど負けてらんねぇよ。
 フッと短く息を吐き、向かってくる相手の頬に拳を突き刺した。尊敬するふたりのような力はなくとも、それなりの打撃にはなったらしい。近くの敵を巻き込んですっ飛んでいった相手は白目を剥いて気を失っているようだった。
 肩で大きく息を吐き、オレの横をすり抜けてぺーやんくんの元へと行こうとした相手の膝に鋭い蹴りを入れる。派手にすっ転んだ相手を跨いで腰を落とすと、その襟元を掴み頭を起こした。

「オレの隊長のとこにも副隊長のとこにも行かせねぇっつってんだろ」
「い、言われてねぇ……」

 口答えされると同時に鋭く拳を振り下ろした。返り血が飛んで来たのが嫌で顔を顰めると同時に、すぐ後ろから蹴りが飛んでくる。遠心力により威力を増幅された重い一撃だった。なんとか頭との間に挟んだ腕でガードしながら、横っ飛びに退くと足をぶん回したことでガラ空きになったままの相手の腰に蹴りを入れた。前のめりに倒れた相手の背を踏み抜いて、次の敵の居場所を探す。
 まだまだこちらに向かってくる敵は多い。だが多勢に無勢は今に始まったことじゃない。むしろ東卍の伝統芸能みたいなもんだ。
 こういう場に慣れていると言ってしまえばそれまでだ。だが、今はそれ以上に胸に熱い想いがある。
 ――ぺーやんくんに頼まれたんだ。絶ッ対ェ負けない。
 オレにはマイキーくんにタイマンを挑むような気概はないし、負けるとわかっている親友を送り出す度量も無い。だけど、参番隊としてのプライドなら骨の髄まで叩き込まれてる。
 殴りに殴った拳が破れようとも、振り下ろした踵が痛もうとも、オレは――オレたちは前へ進む。東京卍會の参番隊は、そうやって戦う隊だ。
 口の端から滲む鉄の味を舌で舐めとりながら、真正面に立ちはだかる敵にニッと笑いかけたオレは相手向かってまた一歩踏み出した。




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