TW01:とある夏

とある夏の日の誓い


「じゃあなー、
「オゥ、また明日な」

 途中まで一緒に帰っていたクラスメイトに手を振って別れを告げ、それぞれの帰路につく。さっきまでは喋っていたから気にならなかったけれど、ひとりになった途端、茹だるような暑さに気付かされた。
 夏休み中も毎日のように行われる課外授業は、一応終わりの時間も定められてはいたが、熱心な教師が多い校風のせいか日に日に長引くことが増えていった。
 今日もそうだ。やけに熱心な教師は「残業時間なんて概念は無いのかな?」と疑わしくなるほどの熱量を見せ、オレたちに問題を解かせ続けた。授業終了後に行われたミニテストの解説を経て、ようやく学校を出るころには時刻は既に18時を回っていたほどだ。
 夏真っ盛りだからこそ外はまだ明るい。これから遊びに行っても構わないくらいの気持ちにさせてくれるが、日が翳りを見せてなお残る暑さには辟易してしまう。
 ――もうすぐ9月になるってのになぁ。
 暑さには勝てない。そう諦めたオレはきっちり締めていたネクタイ下げさらにボタンをふたつ外した。上のシャツ脱いでTシャツだけで帰ったらさすがに怒られるかなぁ。
 そんなことを考えながら、勉強のし過ぎで凝り固まった背中に手を添える。進学校に入学して一年ほど経ち、ようやく長時間の勉強の癖はついてきた。だが中二まで自堕落の限りを尽くしていたツケは思ったより根深く、時折授業中に立ち上がって屈伸したい衝動に駆られるほどだった。
 肘を伸ばすストレッチをしながら歩いていると、肩にかけたスクールバッグがずり落ちる。普段より幾分か重い衝撃に耐えかね、鞄を取り落としてしまう。間違って学校用の辞書を持って帰ってしまったんだろうか。
 訝しみながら中を確認すると、先週まで読んでいた本が数冊入っていることに気が付いた。
 ――そう言えば帰りに図書館に寄って本を返却しようと思って持ってきたんだっけ。
 まだ返却期限まで日はあるけれど、せっかく持ってきたんだ。このまま返しに行くのがベターだろう。明日もまたどうせ補講が長引く予感に溜息を吐きこぼしながら帰路を逸れ、図書館へ足を向けた。
 もう閉館されてるだろうし、わかりやすいところに返却ボックスが置いてあるといいな。たまに訳わかんねぇとこに出てたりするんだよな。
 ぼやき混じりに歩いていると、前方によく知る背中が3つ並んでいるのに気が付いた。
 ――タケミっちと千冬。それに八戒もいるじゃん。
 数メートル先を、中学の頃に入っていたチーム〝東京卍會〟で一緒だった三人が何やらしゃべりながら歩いていた。高校が離れてからはあの時みたいに頻繁に会うことも無くなったが、アイツらのことは今でも気のおけない仲間だと思っている。
 久々の再会に口元がニンマリと緩む。そのままさりげなく足を速めて最後尾を歩く八戒の背後にピタッと張り付いて様子を窺った。だが三人は話に夢中のようで、オレの接近に気づく様子もなくそのまま会話を弾ませる。

「タカちゃんも仲間になってくれたし、あと誰に声かけよっか」
「そうだな……。つってもオレらの上の世代ってみんな社会に出ちまってないか?」

 八戒の発言に千冬は唸り声と共に応じる。上の世代、と言われると同時に頭の中にパッとパーちんくんとぺーやんくんの姿が浮かび上がった。三ツ谷くんはよくて、林田不動産で働くふたりを誘えない用事ってなんだろう。
 女子高生との合コンでも企画してるんだろうか。年齢的にはアリだけど外見的には犯罪臭あるかもな。ってかタケミっち激マブの彼女いなかったっけ? それに三ツ谷くんはちゃんと付き合ってたハズでは?
 顎に手をやり、うーんと唸りながら考え込む。二組とも破局でもしたのかなぁ、などと失礼なことを思い浮かべたまま歩いていると、先頭を歩いていたタケミっちが「そうなんだよな」と会話を続けた。

「だからまずは同い年のやつに声かけてみようかなって思ってさ。あとオレらの同い年と言えば……」
はー?」
「そうそう、! って! うわっホンモノ!」

 条件に当てはまるオレがここにいますよ。そう宣言すべく手のひらを軽く掲げて口を挟んでみれば、先頭を歩いていたタケミっちが大袈裟にのけぞった。

「近くにいるなら声かけろよ! すっげーナチュラルにまじってるから全然気づかなかったじゃん!」
「今かけたじゃん」

 三者三様の驚きを示したが、中でもほぼ横並びに歩いていた八戒が一番の動揺を見せた。驚き半分、怒り半分の表情を執り成すべくポンと肩を叩いたが「遅いよ!」とさらに文句を放たれる。千冬に至っては目を真ん丸にしてこちらを見つめる始末だった。

「で、なんの話ししてんの?」
「あ、あぁ。それじゃ、あっちで話そう」

 いまだ動揺に揺らぐ視線をオレへと差し向けたタケミっちは、折り入って話があるのだと言わんばかりに近くの公園を指し示す。特に断る理由もないオレが頭を揺らして応じれば「じゃあ、行こう」とタケミっちは進路を変えて歩き始めた。
 4人連れ立って公園へ入ると、砂場の近くで足を止めたタケミっちがこちらを振り返る。いつになく真剣な眼差しに自然とこちらの背筋も伸びるようだった。

「なぁ、
「ん?」
「その、少し難しい相談になるんだけど。――聞いてくれるか?」

 そう切り出したタケミっちの話に耳を傾ける。真摯に言葉を紡ぐタケミっちの言葉を総括すると〝タケミっちがマイキーくんとの再戦を果たすべく新しいチームを立ち上げた〟という話だった。
 入院中に考えていたことやこれからやりたいこと。それぞれの話を、順を追って話すタケミっちは真剣そのものだ。あんな目に遭っておいてそれでもマイキーくんに立ち向かう。その信念を貫くタケミっちの姿勢に、茶々を入れる気にはなれなかった。

「……へぇ。で、今はその仲間集め中ってわけね」
「あぁ。だから、にも――」
「オッケー。じゃあオレもそのチーム入るわ」

 親指と人差し指をくっつけてOKマークを作って応じるとタケミっちだけでなく千冬と八戒までもが驚いた表情をこちらに向けた。

「えっ?! いいの!?」
「いいもなにも……入るに決まってんじゃん。ってゆーか、そんな話になってんならなんでもっと早く声かけてくんねぇのよ。水くさいなぁ」

 タケミっちが声をかけるのなら、相棒である千冬が真っ先に呼ばれるのは納得できる。だけどその次に、って考えたときになんでオレの名前が挙がらないかなぁ。さっきなんてオレを差し置いて年上に声かけようかなんて話してたし。同じ高校じゃないから二人目は八戒に譲るけどさ、その次に声かけてくれてもよくね?
 そんな不満を抱いているのだと正直に告げると、またしても3人とも焦ったような表情を浮かべた。

「いや、次に誰を誘うかって考えた時、は? って話にもなったんだけどさ」
「けど?」
「なんて言うか……オマエ、今じゃスゲェ真面目になっただろ?」

 言い淀みながら慎重に言葉を紡ぐ八戒の弁に目を瞠る。オレにとっては勉強する上で成績面でちょうどいい高校だったから今の高校を選んだだけだが、どうやらこいつらからは本気で不良の道から足を洗ったように見えていたらしい。
 もちろん、無闇矢鱈に突っ張るつもりはないけれど、タケミっちの話を誰が〝無駄〟だなんて思うだろうか。オレの将来を慮っての遠慮が原因とわかった以上、もう拗ね散らかす必要は無い。

なら入ってくれるってわかってたからさ。なおさら声かけるのに躊躇しちゃったんだ」

 指先で頬を掻くタケミっちは照れくさそうに眉尻を下げて笑っている。信頼しているのだと言われるよりも強く印象づけられる表情に自然と口元は綻んだ。

「でも本当にいいのかよ。お前たしかお坊ちゃん学校行ってんだろ」

 眉を顰めた千冬は、進み始めたら後戻りは出来ないと言わんばかりの表情でこちらを見上げた。実直な眼差しに乗せられたオレへの配慮が透けて見えて、思わず小さく苦笑する。
 ――千冬のやつ、自分の未来は勘定に入れてないくせに、こっちの心配はしちゃうんだもんなぁ。
 不良のくせに、こいつら本当に人がいい。ここにいない三ツ谷くんにしたってそうだ。わざわざ血を流してまでマイキーくんを迎えに行く理由なんてないだろうに、そんなの知るかとばかりに立ち向かう道を選ぶ。
 ――多分、最初に立ち上がったのがタケミっちだからなんだろうな。
 初めて見かけたとき、その小さな身体でキヨマサに楯突くなんてハチャメチャなやつだと思った。決して喧嘩は強くない。だけど諦めない心だけは人一倍にある。
 パーちんくんにボコボコに殴られても愛美愛主と抗争すべきではないと説いたのも、ぺーやんくんが稀咲に唆された時に東卍を守るために立ち上がったのも、ほかでもないタケミっちだった。
 ――だからみんな手を貸そうとするんだろう。
 きゅっと唇を結び、千冬へと向けていた視線をタケミっちへと流す。目が合うとタケミっちは軽く驚いたように目を見開かせた。だけど、まばたきひとつ挟めばこちらを強い視線でもって見返してくる。その眼差しに宿る炎が、じわりとこちらの気持ちに火をつけた。
 ふ、と口元を緩めると真正面に立つ千冬へと視線を戻す。

「たしかにオレは頭脳明晰で運動神経抜群な文武両道を地で行く男だし、今となっては品行方正なんてオプションがつくわ、おまけに髪色も元に戻して眉目秀麗が際だってきたわで大絶賛株価上昇中だけど……」
「オイ!」

 両頬に手のひらを当てがいつらつらと自らに対する美辞麗句を並べ立てると、神妙な顔をしていた千冬からツッコミが入った。呆れたように苦笑する八戒に一瞥を投げかけ、そのままタケミっちにニッと笑いかける。

「でもね、武闘派の看板を下ろしたつもりもねぇんだよね」
「そっか。……は参番隊だもんね」
「そーよ。オレだってあの参番隊で鳴らした男よ? タケミっちのために一肌脱ぐくらいワケないっつーの」

 マイキーくん率いる関東卍會と戦う以上、きっと今までで一番キツい抗争になるはずだ。つい先日の三天戦争ではドラケンくんまで殺されたんだ。強がってみたものの、正直、オレ程度のやつが無事で済むとは考えにくい。
 それでも頼ってきた友を追い払ってまで得られる平和に興味は無い。何よりもパーちんくんとぺーやんくんに揉まれた日々を活かすのはここしかないと魂が叫んでいる。
 下げたままだったはずの手のひらはいつの間にか拳に変わっていた。今胸にある決意に、迷いなどない。
 オレの宣言に対し、タケミっちだけでなく千冬も八戒も安堵するように息を吐く。固さの取れた笑顔を浮かべたタケミっちが一歩こちらへと歩み寄ってきた。

「ありがとう。
「どういたしまして。絶対勝とうな!」
「……あぁ!」

 差し出された手のひらを取ればぎゅっと強い力が返ってくる。何をもって勝ちとするか。詳しくはまだ聞いていないがタケミっちの内にある信念が負けなければいい。それだけの話だ。

「じゃあさ、が退学になったらオレらの高校来いよ」
「ハハ。それもいいな」
「っつーかその場合、オレらも危うくねぇか?」

 八戒の提案に乗ってみせれば千冬がさらに尻馬に乗ってくる。和気藹々とし始めた空気に乗ってオレはニッと口の端を引っ張って笑って見せた。

「まぁ退学なんて軽いもんよ。そもそもオレ、縁故採用で林田不動産に入るからさ。最悪前科ついても大丈夫」

 なんてったって次期社長のパーちんくんが前科持ちなんだ。一犯くらいなら大目に見てくれるだろう。唇の真横でピースサインをふたつ作っておどけてみせるとタケミっちは引きつった笑顔を浮かべた。

「あ、そうだ。仲間探しってんならさ、ちゃんとパーちんくんとぺーやんくんにも声かけてよね」
「え? いいのかな。そりゃ、あのふたりが入ってくれるなら嬉しいけど……」
「いいっていいって。オレが許す!」

 杞憂を口にしたタケミっちに手のひらを振って大丈夫だと示すと、千冬は呆れたように顔を顰めた。

「お前が許可出すのかよ」
「だってパーちんくんとぺーやんくんが手伝ってくれないワケないでしょ。むしろ声かけない方が失礼だっつの」
「そうだよ。タカちゃんだって力になってくれたんだからさ。誘ってみる価値はあるよ」

 隙あらば三ツ谷くんの話題を出す八戒は力強く頷いてタケミっちを促す。タケミっちもまた背中を押されたことで気合いが入ったのか、「そうだな」と不安げな表情を一掃させた。
 そもそもタケミっちが入院してた時、いの一番に力になると宣言したのはぺーやんくんだ。パーちんくんだって同じ考えでいるに決まっているんだから、あのふたりが力になってくれないはずがない。

「参番隊に声かけるならやっぱり肆番隊にも手伝って欲しいよな」
「スマイリーくんとアングリーくんだったら力になってくれそうだもんな」
「そういやタケミっちさ。溝中のヤツらにはもう声かけたのかよ」

 あぁだこうだと今後の展望を話していると、いつの間にか日は落ち夜の帳を纏い始めていた。これ以上の話はまたの機会に、と促せば3人とも口々に同意した。

「じゃあ、オレこれから図書館に寄るから。いろいろ決まったら教えてくれよ」
「あ。待てよ、。帰るならコレ着てけよ」

 遅くならないうちに本を返しに行かねばと背を向けると、千冬に肩を掴まれた。その手に握られた丸まった布へ一瞥を落とし、改めて千冬に視線を戻す。

「え? なに、入会特典?」
「フフン。ただの服じゃないぜ」

 キメ顔でこちらを見上げた千冬は手にした服をこちらへと放り投げてくる。落ちる前に掴み、そのまま腕を振って広げると愉快な顔したネコが目に飛び込んできた。黒猫の周りに描かれた雪の結晶のようなモチーフ。そしておおきく書かれたTとWの文字を目で追い、頭の上にクエスチョンマークを散らす。
 ――え、なに、意味がわからないんだけど。
 目を数度瞬かせながらもTシャツの柄を確認し、千冬のドヤ顔に視線を戻す。千冬。千と、冬。千冬の名前を分解すると同時にThousandとWinterの単語が脳裏に浮かびあがってくる。嫌な予感と共にその単語を頭の中からふるい落とそうと試みた。だが、一度浮かび上がった懸念は目の前に立つ千冬の笑顔によって、より強固な印象を残すことになる。

「新チーム、サウザンド・ウィンターズの特攻服だ」

 いつになく凜々しい顔つきで宣言した千冬に思わず笑顔のまま固まってしまう。
 ――なんて? これが、特攻服?
 二年もの間、東京卍會に所属してたとは言え、必要以上に知る必要はないと思っていたので不良界隈に冠する知識は乏しいままだった。だが抗争で当たった他チームの特攻服がTシャツだったなんてことは一度も無かったはずだ。
 一抹の不安を覚えたまま視線を巡らせれば、千冬どころかタケミっちも八戒も同じTシャツを身につけていた。
 言われるまで気付かなかったが、どうやら本当にこのダサTがチームの特攻服になってしまっているらしい。最後の最後に提示された雇用条件に目を瞠ることしか出来ない。

「はー……。なるほど、こういう路線ね」

 笑顔は崩さないままうんうんと頷いて見せれば千冬は誇らしげに胸の前で両腕を組んだ。「いいだろう」と口にするでもなく自信満々な表情を浮かべる千冬に内心で溜息を吐きこぼす。
 別に褒めてないのに何をもってこの自信なのか。
 文化祭で作ったクラスTシャツ――いや、ここまでくると最早子供服の方がいくらかマシなんじゃないだろうか。ちびっ子相手ですら賛否が分かれそうなデザインを薄目で見つめたところでその印象は覆らない。とにかくオレは全力で賛否の否だ。
 だがその感情を気取られれば揉めること必至だ。無駄な抵抗を見せるべきではないと判断したオレは、ニコニコと笑ったまま千冬から視線を外さずそっとスクールバッグの中にTシャツを突っ込んだ。うまく誤魔化せたと思った。だが、バッグから引き抜こうとした腕を強く千冬に掴まれたことで失敗を悟る。

「着ろよ」
「あー……。家に帰ったらね。毎日着させてもらうよ」

 パジャマでね、と内心で付け足した。笑顔を貼り付けたまま応じたんだ。少しは誤魔化されてくれないだろうか。そう期待したが、どうやら千冬はオレの心が読めるらしい。頑として引く気は無いとこちらを睨む千冬の追求が緩むことはなかった。

「いいから着ろって。じゃねぇとチーム入った意味ネェだろ」
「いやいや。さすがに道端では着替えたりしないでしょ。人目もあるんだし」
「女子じゃねぇんだから気にすんなよ」
「うちの高校、校則厳しいから柄T着るのダメなんだって」
「お前が今着てるやつの方が派手だろうが!」

 こちらに手を伸ばした千冬に緩めていたネクタイをさらに下げられる。するりとネクタイをほどかれれば隠れていた部分が否応なしに暴かれた。薄い夏服のシャツ越しに見えるのは肌着代わりに着ているTシャツだ。
 千冬の指摘通り、つい先日ぺーやんくんにバイト代の代わりに買ってもらったTシャツは、ぺーやんくんの趣味丸出しの物々しい柄が入っていた。渡されたばかりのTシャツと比べなくとも、派手で落ちつきのない色使いと言えるだろう。
 だが、胸の中心部分に太いライン状に柄が入っているだけであとは白地なのでデザイン的には全然アリだ。それこそ千冬のデザインしたものよりずっといい。頭の中では反論はいくらでも浮かんだ。だがそう懇切丁寧に伝えたところでこの自信たっぷりな頑固者に通用する気がしなかった。
 チラリと千冬の背後に控えるふたりに視線を流す。不本意であると顔に書いてあるくせにそのTシャツを着せられたままのタケミっちと八戒の惨憺たる有様を目にすれば、オレひとり抵抗したところで無駄なんだろうなと悟るほかなかった。
 それでもオレは着たくない。その一心でなにかと理由をつけては断ったものの無限コンティニュー持ちの千冬に敵うはずがなかった。ネクタイもシャツも、最後の砦のTシャツさえも剥ぎ取られたオレは公共の場である公園で半裸に追い込まれた挙げ句、千冬のダサTを着せられるハメになる。千冬はこれで仲間が増えたと満足げだったが、隣に立つ相棒が苦笑しているのは見えてないんだろうか。

「……なぁ、八戒」
「ん?」

 次はパーちんくんたちだ、と意気込む千冬を尻目についっと八戒の隣に滑り込む。手の甲を頬に当てれば内緒話であると気付いた八戒が軽く前傾し耳を欹てた。

「……特攻服、絶ッ対ェに三ツ谷くんに考えてもらえよ」
「大丈夫。オレらもそう思ってるから」

 着せられたばかりのTシャツを引っ張りながら伝えれば、心はひとつだと言わんばかりに神妙な顔をした八戒がこちらに手を差し出してくる。その手を取ってぐっと握りしめれば、この日一番強く仲間が出来たと実感が湧いた。





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