三井 寿03:規則正しい生活02

規則正しい生活です#02


 帰り道、と別れて5分後、辿り付いた自宅を見上げた際に違和感を感じたのは、窓のどこからも光が漏れていないことだった。
 部活を終えて寄り道もせずに真っ直ぐ帰ってきたのだから、もうすでに床に就いているとは考え辛い。仕事のある父はともかく、母親がこの時間帯に家にいないことは珍しいが、もしかしたら夕飯の準備に足りないものを買いにでも出たのだろうか。
 そのように考えながら玄関のドアをくぐり、玄関先にやはり靴が無いことを知り、不在であることを知る。
 靴箱の上に鍵を置き、洗面所の方へと足を運ぶ。お湯の出る蛇口を捻って手を洗い、手近にあったタオルで手を拭いた後、それとまとめて部活で着ていたシャツを洗濯機の中に放り込む。
 日頃の習慣通りに動いただけで肩から息を吐くザマだったが、のろのろとした足取りでリビングへと向かった。壁にある電気のスイッチを押すと2、3度瞬いた後に明かりが点り、閑散とした室内を目の当たりにすると、嫌でも溜息が口から漏れる。
 整然としたリビングは人の気配が全く感じられず、母親がさっきまでいただなんて考えられるような雰囲気が無い。視線をダイニングテーブルに延ばすと、そこにはみかんを重石にメモ紙が置かれていて、それは恐らくあまりいいことが書いてないことだろうことが内容を見ずとも解った。
 部屋の入り口付近に鞄を置き、そのメモ紙を拾い上げると、そこには「お父さんと旅行に行ってきます」という旨の内容が書かれていた。
「……マジかよ」
 そういや、先週くらいに結婚記念日だとかなんとか言ってたっけ。それが今週末の連休だったなんて今朝は言ってただろうか。思い返そうとしたものの、朝はぼうっとしていたから聞き流してしまったのかもしれない。
 親も親で浮かれていたために、オレの変調に気付けなかったのだろう。
 別に飯が無いなら無いでもいいが、もう一度外に出る気力はすでに尽きてしまっている。
 ――帰りに買ってくればよかった。
 この仕打ちには溜息を吐くことしか出来ない。頭痛も酷くなってきたし、買い置きの風邪薬を飲んで寝てしまおうか。だが、空腹の状態で飲んで胃が荒れるのも辛い。
 レトルトのおかゆくらいならあるだろうか。冷蔵庫の中や戸棚のストックを漁ったものの、カップラーメンは見つかるもののおかゆはおろかうどんすら見つからない。やっぱり近くのコンビニまで行くしかないようだ。
 鞄の中から財布を取り、玄関先で家の鍵を手に取ったが、靴を履いたところで頭の奥で鈍い痛みが響く。家の中であれば安心感があり、そこまで感じなかったが、どうも風邪は思ったよりも悪化の一途を辿っているらしい。
 家を出る気力が沸かず、歩くと言う選択肢を取るのがどうも億劫に感じられてならない。
 ――ダメだ。薬は諦めて軽く汗だけ流して寝るか。
 部活で掻いた汗でベタベタした身体で床に就くのは厭わしい。湯冷めしないようにお湯も張った方がいいのかもしれないけれど、それを待つ体力は残っていなさそうだ。
 部屋から着替えを持ってきて、身体が温まるまで20分ほど熱めのお湯を浴びる。上がった後タオルで頭を拭っていると、ピンポーンと軽い音が鳴り響く。
 ――宅急便か何かだろうか。
 面倒だと思いつつも朦朧とした意識の中では正常な判断が出来ず、二度三度鳴らされる方が煩わしいと思い、玄関先へと向かった。扉を開けるとすぐに冷たい空気が流れ込んでくる。シャワーを浴びることで身体に集めた熱を一瞬で奪われてしまい思わず身震いした。
 誰が来たのだろうか、と視線を落とすと、そこには先程別れたばかりの幼馴染が立っていた。
「……?」
 目を丸くしてオレを見上げたは、オレの肩に掛かるタオルを見て、しまった、と罰の悪そうな表情を浮かべた。
「あ、ごめん、お風呂入ってたんだ」
「いや、別にかまわねぇけど」
 あまりの寒さが身体に染み付く前に、との手を引いて家の中へと招き入れる。彼女が家に遊びに来ることは珍しくは無かったが、事前の約束無しに突然やってくることは滅多に無い。
 オレが知らないうちに母親が呼んでいるということもあったが、母親が留守である今日は考えられないことだ。
 先に玄関を上がったオレに連れられて靴を揃えて上がったの、オレが繋いだ手とは反対の手に握られた鞄の中が結構な荷物が入ってるように見えて、それを持ってやろうとすると、「大丈夫」と柔らかく拒絶された。
「今日はどうしたんだよ?」
 自分の部屋に向かう階段を上りながらを振り返ると、大人しくついてきていたと視線がかち合う。
「ひーくん、今日おばちゃんたちが旅行だって知らなかったでしょ?」
「え? あぁ、行くのは知ってたけど、今日だってのは知らなかったな」
 オレの返事に「やっぱり……」と小さく溜息を吐いたが、帰り際に煮え切らない態度を取っていたことを思い出し、親の旅行が関係していたのかと今更ながらに理解した。
「あのね、おばちゃんから昨日の夜、言われてたのよ。今日から三日、留守にするからバカ息子のことよろしくねって」
「んだよ、それ……」
 バカ息子という言い草も酷いと思ったが、そのバカ息子の面倒見るのを年下の幼馴染に任せるなよな。
「普通に食事の面で心配だったんじゃないかな。ラーメンだけとかコンビニ弁当だけだと身体に悪いし」
 脱力して肩から力を抜くと、が落ち着いた声で母親の言葉の裏に潜むものを解説する。親が心配していることをしれっと口にされると気恥ずかしいものがあったけれど、悪い気分にはならなかった。
「でもまさか風邪引くとは思ってなかったよ。いつも間が悪いよね、ひーくんは」
 言って、面白そうに笑うは、相変わらず悪戯小僧のような顔だった。
 一つ、の額を小突きながら部屋の中に入ると、オレはそのまま倒れこむようにベッドへと雪崩れ込み、「適当に座れよ」とクッションをに向けて放った。それを片手で器用に受け取ったは、ベッドの傍にクッションを置くとその上に膝立ちになり、仰向けになって倒れこんだオレの顔を覗き込む。
「ひーくん、まだご飯食べてない?」
「あぁ? おぉ、まだ食ってねぇよ」
 傍らに荷物をおいたの手がオレの額に伸びる。相変わらず冷たい指先の感触に目を細めて、オレからもへと手を伸ばした。
 彼女の頬もまた指先と同様に冷たくなっており、風呂から上がったばかりのオレの手の温度が移ればいいのにと両手で覆ってやったが、の頬が温まるよりも前に離れていく。
 名残惜しむようにの手を取ったが、あしらうように頭を撫でられるだけであった。立ち上がったは置いたばかりの荷物を手にし、それを目の高さまで掲げて示す。
「うちのご飯とか、適当に持ってきたから30分くらいで用意できると思う」
 言って鞄の口を開き、中身を見せられたが、言うとおり食材と言える物がタッパーに詰められているようだった。
「だからひーくんは寝てなよ。出来たら起こすし。あ、ひーくんちゃんと肩まで毛布かけないとダメだよ。いつも腕だけ出すとか言って、結局お腹の辺りまで毛布下げちゃうんだから」
「ん……」
 オレが口を挟む隙もないくらいに流暢な言葉を紡いだは即座に行動に移す。起き上がって布団の中に足を差し入れていると、言葉の通りに肩まで毛布をかけられる。きちんと毛布を掛けたことに満足したのか。お腹の辺りを二回柔らかな手つきで叩き、は部屋を出て行った。
 部活の時と同じように的確で卒の無い言葉に、そういやコイツが中学の時に女バスと合同ミーティングした時も似たようなことがあったっけ、なんてことを思い返した。
 普段ののことを何も知らない部活の仲間から「みっちゃん、将来絶対にの尻に敷かれるよ」なんて言われたのもあの時だっけ。
 オレがの横暴にも似た言葉を甘んじて受け入れているのは、コイツが心底オレを想って、優しさで行動を起こしていることが解っているからだ。
 ――蔑ろにされた覚えなんてないし、意外と尽くすタイプなんだってことを自慢するわけにはいかないけれど。
 そんなことをしたところで惚気ているだなんてからかわれるのは目に見えている。
 小さく肩で息を吐き、かぶせられたばかりの毛布を肩まで下げ、ベッドの頭に置いたサイドボードの上からテレビのリモコンを取って、電源をつける。チャンネルを切り替えていると、フジで野球中継が行われていた。
 対戦チームを確認し、右上に薄く浮かぶテロップに、どうやらこの試合が日本シリーズの天王山らしいことを知る。5回裏で1-1の同点、二死一三塁という状況は、恐らくこの試合の一つの山場になるのだろう。
 真剣な目をした打者が映し出されたのを眺めながら、力の入った打者の表情から落とす球を投げたら空振りが取れそうだなと素人目線で考えた。

* * *

 うとうととまどろみながら試合の局面を眺めていると、6回の表の攻撃が終わった頃にがまた部屋へと戻ってきたのか、2回扉をノックされる。それに対して返事をすると、部屋に入ってきたの持つお盆の上には土鍋と、小鉢がいくつか乗っかっていた。
「具合大丈夫? 食べれそう?」
「……食べる」
 まどろんだ視線でを眺めていたのだろう。お盆をテーブルにおいたは、気だるげに起き上がろうとするオレの背中に手を差し入れ、心配そうな顔で見つめてくる。抱きかかえられるように起こされ、傍らに置いてあった枕をすかさず背中に入れられるものだから介護されているような気分に陥ってしまう。
 頬に走る熱を誤魔化すようにから顔を背け、が作った料理に目を落とすと、二人前はありそうな量に驚きで目を開く。
「っつーか、これ多過ぎだろ」
 平常であれば楽に食べれるだろうけれど、風邪を引いている状態でこの量を食べきれる自信が無い。焦ったオレの顔を一瞥したは、茶碗におかゆをよそい、オレの手の中にレンゲと一緒に押し込んだ。
「だって私も食べるもん」
「は? お前食ってきてねーの?」
「うん。早くひーくんの家に来たかったし、一緒に食べたいなって思ってたから」
「……そーかよ」
 自分の分をよそいながら答えるの言葉に、彼女のありがたみと愛しさが心の中に充満する。こんな風にから大事にされているということが、最近素直に身に染みて嬉しいと思うようになった。
 昔は気恥ずかしさが強くて、煩わしく思ってたことが信じられない。
「それじゃ、いただきまーす」
 手の平同士を合わせ、親指と人差し指の間に箸を挟んだに促され、オレもまた持たされたままのおかゆに口をつける。
 塩昆布とちりめんを散らした塩味のおかゆの他には、青菜の漬物、牛肉のそぼろ煮、大根おろし、ホウレン草の白和え、裏ごしされてペースト状になった梅干ととろろを青葉で包んだものなどが小鉢に盛られていた。口当たりのいいさっぱりとしたものが中心なのは、病人食というのを気遣っているからだろう。
 食ってると身体が温まっていき、食べる前よりも食欲が出てくるようだった。最初は食えない、なんて言って跳ね除けたくせに、3分の2以上を食べてしまったオレには嬉しそうな表情ながらも苦笑いを浮かべる。
「食欲ありそうなら追加で何か作ろうか?」
「いや、充分だ。ありがとな」
「あ、でもゼリーもあるよ」
 言って、立ち上がり食べ終わったばかりの皿を引っさげてオレの部屋から出て行ったは、茶碗を洗ってきたのか、10分ほど経ってから2つのカップをそれぞれの手にし、戻ってきた。
「はい、ひーくん」
 右手に持ったみかんのゼリーを渡されて、が持つ方へと視線を延ばす。その手に持たれたなめらかプリンはが一番気に入っているデザートであることが見て取れてニヤリと口元を緩める。
「そっちのプリンは?」
 冷やかすような視線を投げかけると、は焦った表情で身体を捻ってオレの視線からプリンを守る。
「これは私の」
「ふーん」
「な、なによぅ。好きなんだもん食べたっていいでしょ?」
「バーカ、取らねぇよ。サンキュ」
 一通りからかって楽しむと、は人の悪い顔を浮かべるオレを睨みつけながらも、すぐに肩から力を抜いてプリンを頬張った。幸せそうに食べるの姿に頬が緩み、彼女の方へと自然と手が伸びる。
 頭を柔らかく撫で付けてやると、気持ち良さそうに目を細めるに、プリンの味が幸せなのかオレの手を愛しく思ってくれてるのか、どちらなんだろうな、と考えた。オレの手であればいいのに、と願いながらみかんゼリーを口に運んでいると、甘ったるい味が口に広がり喉が渇いていることに気付いた。
「なんか、飲み物ねぇの?」
「はいはい」
 膝立ちになってオレが背を預けた枕の裏のサイドボードに手を伸ばしたは、ペットボトルに入ったポカリと、風邪薬の瓶をオレに差し出してくる。
 首を捻って背後を確認すると、いつの間に置かれていたのか、500mlのペットボトルがいくつかそこに並べられている。
 その並ぶポカリに触れてみると、飲み過ぎて腹を壊さないようにと言う配慮だろうか、ぬるいものと冷たいものと両方用意されているようだ。
 感心するくらいに、甲斐甲斐しいところがあるな。よく気も利くし、伊達に2年もマネージャーやってるわけじゃないってわけか。
 規定の通り3錠の薬を手に取り、ペットボトルに口をつけていると、食べ終えたゼリーのカップを手から抜かれ、ゴミを袋に纏めて、持ってきていた鞄の中に放った。そのまま立ち上がったは口元に笑みを浮かべてオレに手を翳す。
「それじゃ、あとは温かくして寝てね」
「なんだよ、もう帰んのかよ」
 病気になると心細くなるのか、思わずそのような言葉が口をついて出た。
 言ったオレも驚いたが、普段オレの憎まれ口しか聞かないの方が驚きが大きかったのか、真っ直ぐに唇を引き締めて、丸っこい目を更に丸くしてオレを見やる。
 素直過ぎる言葉を吐いてしまったことで、頬に熱が走り、貰ったばかりのポカリを頬に当てて羞恥を隠した。オレの慌てる様を目にしたは小さく噴出して笑い、肩から力を抜いてオレに鮮やかな笑みを向ける。
「んー、じゃあ、もう少しいようかな」
 オレの寝るベッドに肘を付いて腹から寄り掛かるようにして座ったに合わせて、背中を預けていた枕を戻し、ベッドに横になった。
 オレの横に置かれたままだったの手の平を握り締めると、があまりにも嬉しそうに笑うものだから、正面から見ていられなくてワザとシーツに目を向ける。クスクスと笑ったは、ベッドに右頬をくっつけてオレと目が合うようにした。
「ひーくん。ね、ひーくんってば」
 繋いだ手の指先をくすぐるように弄ぶに、観念して視線を戻すと、鮮やかな笑みが眼前に広がった。
「小さい頃もさ」
「ん?」
「こういうこと、しょっちゅうあったよね」
「そうだっけか?」
「ひーくんさ、いっつも外でバスケの練習に打ち込んで、鼻水が出ても咳き込んでも止めなくてさ」
「あぁ……あったな」
「それで、決まって私に風邪移して治してた」
「逆もあったろ」
「そうだっけ?」
 オレの言葉に今度はがとぼける番だった。

* * *

 左腕の痺れに目を覚ます。
 つい先程までと話を止め処なくしていたのだが、腹が膨れたのと薬が効いてきたのが原因だろうが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「……?」
 繋いだままの手を引き、ベッドに頬を付けたまま目を伏せているに声を掛けたが、返事が返ってこない。どうやら深く眠り込んでしまっているらしい。
 疲れているようだからこのまま寝かせてやりたいのはやまやまだが、このままベッドの脇で転寝させても身体が疲れるだけだし、かと言って流石に一緒のベッドで寝るわけにはいかない。
 反対の手を伸ばし、の肩を揺すると寝ぼけ眼で身動ぎし、それからようやく目を薄く開いた。
「あ、ごめん。ちょっと寝ちゃってた」
 ベッドから顔を上げたは、猫のように目元を擦りながらふらふらとした足取りで立ち上がる。
「それじゃ、私帰るね」
「なんなら泊まってってもいいぞ?」
 茶化すように言うと、その言葉に覚醒したのか、は眼を光らせてオレを見た。
「ひーくんがそれでいいって言うならいてもいいよ?」
 言葉と共にベッドの縁に腰掛けたは、オレの顔の両サイドに手をついて覆いかぶさるような体勢を取る。
 の言葉に、今しがた発言した自分の言葉を顧みる。思い返せば、今この家にはと2人きり。母親が自分の留守をに任せるなどという、完璧にお膳立てされたようなシチュエーションだ。
 そこまで想像してしまい、喉を鳴らして唾を飲み込む。緊張しているのがに伝わるかもしれないという配慮すら出来なかった。
「バァカ、早く帰れ」
 挑発するように顔を近付けてきたの額をやっとの思いで押し返す。
「ちぇ」
 残念そうに舌を出したは、それでも簡単に引き下がったあたり本気ではなかったようだ。惜しいことをしたような気もしたが、そこについては深く触れないことにした。
「送ってやれなくて悪ぃな。気をつけて帰れよ」
「うん、解ってるよ」
「鍵、玄関のとこ置いてあるから、閉めたら新聞受けの中から家に入れてくれたらいいから」
「解ってるよぅ」
っ」
 帰したくないからなのか、に呼びかける言葉がつらつらと押し寄せるように出てきた。そのすべてをは朗らかな笑みで受け止めてくれる。
 無条件なの優しさに安心して、オレはに甘えてしまっているのだろうと自覚するのはこんな時だ。
「ありがとな」
 今日来てくれたことも嬉しかったし、飯も美味かった。
 今日だけのことじゃない。優しくされたことも、いつも支えてくれていることも、何もかもがありがたいと思っている。
 そんな気持ちを込めたことを、は気付いているだろうか。
「あと……あのな」
 の手を強く引いた。
 帰したくないという言葉を飲み込む代わりに、明日また傍にいて欲しいと伝えたい。そのような言葉をが迷惑に感じることはないだろうと思いながらも、風邪の面倒見てくれだなんておいそれと言えたものじゃない。
 言葉を濁したオレを見たは、ふわりと口元を緩めてオレの枕元にしゃがみこんだ。
「ねぇ、ひーくん明日も来ていい?」
 オレの浅はかな考えなどお見通しなのだろうか。それともの本心なのだろうか。の言葉に、オレの心臓は期待に撥ねる。
「……お前が来てぇなら来れば?」
 可愛げのないオレの言葉でさえもニッと悪戯っぽく笑うは、きっとオレがそれを心から望んでいることを知っているのだろう。バレていることさえも構わないと思えたのは、一方的に握っていたオレの手を握り返すの手の冷たさが、オレの熱で暖かなものへと変わっていったからだった。  



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